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2009年03月16日(月)更新

既知の罠

こんにちは、「店がブランドになることを支援・プロデュースしている」
クエストリーの櫻田です。

「既知の罠」という言葉があります。

売り手側(あるいは作り手側)の
“すでに知っている”“わかっている”という思い込みが、
消費者との間にギャップを生み、大きな落とし穴になることです。

消費者は売り手側が予想もしない理由で店を利用したり、
商品を購入することがあります。
売り手(作り手)のプロは、必ずしも使い手のプロとは限りません。

店は一般的に八百屋、魚屋、時計店、靴店などの業種と
専門店、百貨店、スーパーマーケット、コンビニエンスショップなどの
業態で分類されます。

この分類に自分を当てはめていませんか?
これが曲者です。

長く商売をしているからお客様よりも詳しい、
毎日やっていることだから間違いがない、
知らず知らずのうちに、こういう思い込みに縛られてしまいます。

消費者は業種や業態で買い物を考えていません。
自分の欲しい品が、欲しい時に、欲しい条件で気持ちよく手に入るかどうかです。

「既知の罠」から抜け出すひとつの方法は、自店のカテゴリーを替えてみることです。

例えば、一般的には町の八百屋さんは野菜を対面で販売することが仕事です。
この八百屋という業種と対面販売という業態のカテゴリーを
替えてみて考えるとどうなるでしょうか。

毎日の食卓のための「野菜を使った健康料理の店」、
こういった新しいカテゴリーにおいてみると、商売のスタイルが一変します。

これまでの野菜のプロから、
野菜を使った健康料理のプロに変わらなくてはなりません。

春キャベツに詳しいことももちろん大事ですが、
例えば、春キャベツを使ったコールスローや
ベーコンと合わせたスープの提案も必要かもしれません。
(書いていたら、食べたくなりました)
春らしい食卓の演出も商品になる可能性がありあます。

料理で思い出しましたが、
ある本屋さんは高額な料理の本を売るのに、
その本に載っている料理を店頭で作ってプロモーションをしました。
全国でも指折りの料理本の販売店でした。

「既知の罠」に陥らないようにするには、
店をお客様の生活の中においたときに、
どんなものとして位置付けられるかを考え直してみることです。

このコツをつかむと、新しい店の方向性や売り方が見えてきます。
打つ手はまだまだたくさんありますよ。

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2009年03月09日(月)更新

神は細部に宿る

こんにちは、クエストリーの櫻田です。

2月26日に「身の回りにある宝物」というブログを書きました。
「地場産業ルネサンス ~もう自分で始めるしかない~」というセミナーのことです。

今日、このセミナーの討論者のお一人の高知県馬路村の村長、
上治堂司さんから手紙をいただきました。
驚いたことに、手紙は「木の団扇」に書かれていました。

馬路村からの手紙1

そういえば、セミナーでいただいた名刺は、
杉の香りと木目が美しい木の名刺でした。

馬路村名刺

馬路村といえば、いまでは全国ブランドになったユズ加工品が有名ですが、
魚梁瀬杉(やなせすぎ)に代表される良質の杉材の産地でもあります。

しかし、林業は大きな転換期を迎えています。
馬路村は、新しい林業のシステムづくりのために、
平成12年に第3セクターの株式会社エコアス馬路村を設立しました。

セミナーの当日も紹介されましたが、
杉の間伐材を使った木のバックや団扇などが商品化されています。
今回届いた団扇もそのひとつです。

神は細部に宿るという言葉があります。
ブランディングにおいては、この言葉は避けて通ることが出来ません。
ブランドの軸をブラさないためのシナリオのひとつが、
徹底的に細部にこだわり続けることです。

そこまでやるか、と思う時もありますが、
やりすぎるくらいが、ちょうどいいところに落ち着きます。
たかが、名刺一枚、手紙一通ですが、
ここにブランドへの思いが乗ってくるのだと思います。

真偽は定かではありませんが、こんなエピソードを聞いたことがあります。
あるお店で、お客様がちょっと高額のお買い物をされたそうです。
カードで支払いをし、サインをすることになりました。
お店のスタッフが差し出したペンは、ミッキーマウスのボールペンでした。
サインを書きかけたお客様の手が止まりました。
「あなた、私の買い物のサインをこのペンでさせるの」………!
このお買い物はキャンセルになったそうです。

エコアスという社名は、
「明日はきっとエコロジー、いつか生態系循環の永遠の森につながるように」
というポリシーから名付けられたそうです。
ちょっと注目のブランドです。

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2009年03月07日(土)更新

もしかしたら、戦略などいらないのかもしれない

こんにちは、クエストリーの櫻田です。

先日、久しぶりにお取引き先のあるお店を訪問しました。
お伺いするのは、実に4年ぶり(あまりほめられたことではありませんね)
現在は別の社員が担当していますが、
僕も一時期担当したことがあり、大変お世話になったお店です。

このお店は、ご夫婦お二人で運営されていたのですが、
2年前からお嬢さんが経営に参加されました。

今回の訪問の目的のひとつはこのお嬢さんにお会いすることでした。
お店とは20年以上に渡るお付き合いです。
僕が担当していた頃は、確かお嬢さんは小学校5年生。
実に20年ぶりにお会いすることになります。

オープンと同時にお店に入りますと、
お嬢さんがお店で掃除をしていました。
20年ぶりにお会いしたのですが、まったく違和感なし。
素敵な笑顔で迎えてくれました。予想通りの素敵な女性でした。

このお店の経営者であるご夫婦には、
ちょっと信じられないくらいの熱烈なファンがいます。

その中に入っていくのは、正直大変だろうなあと思っていたのですが、
お会いした瞬間にこのお嬢さんならば大丈夫と思いました。 
何よりも明るさが素晴らしい。

社長様と2時間、あれこれとお話しをさせていただきました。
創業時のこと、訪問された海外の話題、趣味のカメラのお話、
ウォーキングのこと、お父様のこと、疎開した岩手のこと………
話題は尽きませんね。実に楽しいひとときでした。

世間では、急速な景気の悪化、100年ぶりの危機、リストラ、倒産……
暗い話題でいっぱいですが、このお店に関してはまったく関係なし、
その日も、朝からお客様が途切れることがありません。

お店に行きますと、仕事柄、
どうしても繁盛の要素やブランディングのポイントを探ろうとするのですが、
このお店はテクニックや方法論を超えています。

経営戦略や顧客満足の仕組みという言葉がまったく意味をなしません。
お客様に喜んでいただく、このひとことの積み重ねです

3日のお雛祭りの日、東京は雪が降りました。
その日のことをこんな風に語ってくれました。
“雪の日に遠くからわざわざお越しいただいた方がいたんですよ。
ちょうど、お店の雛祭りの飾りを片づけていたんですが、うれしくてね、
この方に思わずそれをプレゼントしたんです。”

もしかしたら、僕たちは商売を勘違いしているのかもしれない。
充分気をつけているつもりでも、
当たり前のことをちょっと小難しい理屈や特別っぽい方法論に
置き換えて語ることがないだろうか?

誤解を恐れずにいうと、中途半端な戦略や仕組みなどはいらないのかもしれない。

ただひたすらに目の前のお客様に喜んでいただくことを考え、実行する。
このことがご商売の原点であることは、誰もがわかっているけれども、
それを一途に、愚直に実践しているところは実は極めて少ない。
しかも、それを自分たちの楽しみとしてやっているところはもっと少ない。

気持ちのなかに溜まっていたもやもやが、洗い流されたような一日でした。


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2009年03月03日(火)更新

銭湯ランナー

こんにちは、クエストリーの櫻田です。

前々回、BLUE NOTEのTシャツのことを書きました。
本来の商品の基本価値をひっくり返せば、
新しい価値を創り出すことが出来るということです。
これまでとは違う消費のカテゴリーに移すことにより、新しいニーズが生まれます。

今朝、仕事へ行く準備をしながら、めざましテレビ(フジTV)を見ていましたら、
東京の人気ランニングコースを紹介していました。
一位は一周5キロの皇居だそうです。
そういえば、お世話になっている税理士事務所の先生も走っているらしい。

そんなことを思いながら、ぼんやりとテレビを見ていたら、
番組は「銭湯ランナー」という話題に移りました。
“なに、それ?”……思わず着替えの手を止めてしまいました。
「銭湯ランナー」ってご存知ですか?

最近ランニングやジョギングをする人がとても多い。
東京マラソンとメタボが後押ししているような気がします。
会社の近くでも、お昼休みに走っている人を見かけます。
当社にも毎朝3駅間を歩いている女性メンバーがいます。

昼間だけでなく、仕事が終わってから走る人もかなり多いようです。
問題は着替えの場所と荷物の保管。
公衆トイレで着替えて、コインロッカーに預けることが多かったようですが、
やっぱり不便ですよね。

そこで、仕事帰りランナーが目をつけたのが銭湯。
銭湯で着替えて、荷物を預けて走るのだそうです。
もちろん、走り終わった後は銭湯で汗を流して帰ります。
このランナーのことを「銭湯ランナー」と呼ぶのだそうです。
とくに女性ランナーに好評だとか。

僕の周りには温泉好きが結構多い。
でも銭湯に行っているという話はあまり聞かない。
お風呂に入り、体を洗いきれいにするだけならば自宅で充分だし、
リラックスやストレス解消では温泉やスーパー銭湯にかなわない。
詳しい数字は知らないけれども、町中の銭湯って年々減っていると思う。

でも、仕事帰りのランナーによって、
また銭湯が見直されているというからおもしろい。

「仕事帰りのランニング」というライフスタイルが、
銭湯の新しい価値を創り出しています。
430円の料金は本来の銭湯とは違うカテゴリーの消費です。

そんなに次々と画期的な商品は登場しません。(必要ないのかもしれない…)
でも目の前の見慣れた商品も消費のカテゴリーを変えることによって、
新しいニーズを持った商品に生まれ変わります。
その切り口は、一時的なトレンドではなく、ライフスタイルの変化です。

やっぱりモノの研究だけではなく、それを使う人の研究が大事ですね。
売り手側から見ると、お金をいただくことは、仕事の終了ですが、
お客様側から見ると、お金を払うことは、使うことの始まりです。


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