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2016年11月12日(土)更新

画家「クラーナハ」の企業家としての顔                   

7月に世界遺産に登録された東京・上野の「国立西洋美術館」。
その見学会がお手伝いをしているNPOの主催で開かれました。

西洋美術館のこともおもしろかったので、近々まとめてみたいと思いますが、
今回は同館で開催されていた「クラーナハ展」のことです。


 
特別に西洋美術館の説明を受けた後、
「クラーナハ展」を観たのですが、実はほとんど知識なしで会場に入りました。
  

ルカス・クラーナハ(1472~1553年)は、
16世紀にドイツのザクセン公国の都ヴィッテンベルクで宮廷画家として活躍した人です。
没後は同名の息子がその技を継ぎました。
 
王侯貴族のオーダーに基づき、肖像画やキリスト教のテーマに基づいた寓意画などを描き、
その名をとどろかせたクラーナハですが、実はもう一つの顔がありました。

それは大きな工房を持ち、絵画の大量生産を行っていたことです。
 いうなれば、クラーナハは画家であると同時に企業家でもあったのです。

制作した作品は息子や弟子たちまで含めると数千点にも及び、
宮廷などの特権階級だけではなく、裕福な市民にも行き渡っていたといわれています。
 

会場でも感じたことですが、クラーナハ工房の作品の特徴は体型やポーズがどれもよく似ています。
一種のテンプレートのようなものがあり、顔の表情や体型やポーズはパターン化され、
各パーツごとにその分野に得意な専門家が描いていたようです。
 

もう一つ、クラーナハが同時代の画家と比較して優れていたのは、
特定分野にこだわらず、斬新な絵画テーマを採用したことです。

今回の展示会の目玉でもあったのですが、クラーナハは宗教画の中から、
女性の裸体だけを抜き出して数多く描いています

まあ、いまも当時も裸体を喜ぶ人がたくさんいたのだと思います。

 
さらにクラーナハは、ザクセン選帝侯から授けられたサインを、ほぼ全作品に刻印しています。

いうなれば、このサインは工房の生産物を他と見分け、
その価値を高めるための商標としての役割を果たしていたのです。

これってまさにブランディングですね。
 

90点以上が集まった今回の回顧展ですが、一番惹きつけられたのは、
はじめて公開された「ホロフェルネスの首を持つユディト」でした。



美しい未亡人のユディトは、切断した敵将ホロフェルネスの生々しい頭を持ち、
おだやかで何ごともなかったように涼しい顔をしています。

怖い作品ですねえ。首の断面もすごい。

妖しい美しさを持った作品ですが、一面どこかコミックや劇画のようにも感じられます。
 

いずれにしろ、個人的にはそれほど好きにはなれない画家ですが、
独特の個性とそれを最大限に生かした企業家精神を持っていたことには興味を惹かれました。

画家としてのセンスにビジネスとブランディングのセンスも兼ね備えていたのがクラーナハです。 
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