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2011年10月11日(火)更新

「顧客価値」を持った言葉の力

「人々が幸せになるブランド」をプロデュースするクエストリーの櫻田です。

 前々回は「違い」について、そして前回は「顧客価値」について書きました。
「違い」をいくら訴えても、それが顧客にとって価値があるものでなければ伝わらないという話でした。
 
長年広告界で活躍している鈴木康之さんと言うコピーライターがいます。
数多くの広告賞を受賞されていますが、コピー作法書も書かれており、若い時に随分と読みました。
 
その中の1冊に「名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方」があります。
その“はじめに”に書かれている一文が「違い」と「顧客価値」のご参考になるのでご紹介いたします。

 
フランスの詩人アンドレ・ブルトンがニューヨークに住んでいたとき、
いつも通る街角に一人の黒メガネの物乞いがいました。
 
首に下げた札には「I am blind.:私は目が見えません」と書いてありました。
 
彼の前には施し用のアルミのお椀が置いてあるのですが、
通行人はみんな素通り、お椀にコインはいつもほとんど入っていません。
 
ある日、ブルトンはその下げ札の言葉を変えてみたらどうか、と話しかけました。
物乞いは「旦那のご随意に」と答えました。
 
ブルトンは「I am blind.」と言う文字を、新しい言葉に書き換えました。
それからしばらく過ぎるころ、その浮浪者は異変に気がつきました。

言葉を書き換えてからというもの、お椀にコインの雨が降りそそぎ、
通行人たちは同情の言葉をかけていくようになりました。
物乞いにもコインの音や優しい声が聞こえます。
 
数日後、物乞いはブルトンに「旦那、なんと書いてくださったのですか」と尋ねました。
下げ札にはこう書いてあったそうです。
 
「Spring's coming soon.But I can't see it.:春はまもなくやってきます。でも、私はそれを見ることができません。」

 

誰が見てもうらぶれた物乞いです。黒メガネをかけているのだから盲人であることも分かります。
「私は目が見えません」は違いを伝えるだけで、人々の心にはなにも響きません。

アンドレ・ブルトンが書き換えた言葉には、物乞いの前を通る人たちに訴える力があります。
憐れみを乞う力があり、人に行動を促す力があります。
 
ちょっと品のない言い方かもしれませんが、集金能力のある言葉です。
読んでもらって、施しの気持ちを起こさせ、施しをいただく、つまり「顧客価値」を感じさせる言葉です。